駅舎の灯

旅の始まりにも、終わりにも、そこには何時も駅舎の灯があった。

山線の記憶 慰霊の地へ

そのトンネルは鹿児島へと鉄路が繋がった時の輝かしい歴史を持つ
同時に、戦争が引き起こした血塗られた歴史の生き証人でもある

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2017年4月 肥薩線 列車退行事故現場

以前「矢岳越えの呪縛 」という記事で、肥薩線列車退行事故のことを話題にした。資料によって犠牲者は49人とも53人ともされているが、何れにしても、終戦後7日目の1945年8月22日に発生した、鉄道史に残る大事故であったことは間違いない。今回の山線の再訪に際しては、何としてもその事故現場に慰霊に行きたいと思っていた。物見遊山的な気持ちが無かったと言えば嘘になるが、その歴史的な背景を思えば、後世に語り継ぐべき悲劇でもある。鉄道好きということを越えて、その場に立たなければならない大きな理由があった。

現場は「山神第二トンネル」の真幸側の出口付近ということははっきりしている。そこに慰霊塔が建立されているはずなので、何とかアプローチできるはずだ。昔なら、真幸から線路を辿るという常套手段があった。途中に山神第一トンネルがあるが、抜けられない長さではない。しかしながら、今のご時世からして、それは避けなければならない。航空写真などを調べると、現場から400m程のところに家屋らしきものがあることが分ったが、線路までの最後の詰めがどうなのかが分らない。事故からすでに72年が経過し、慰霊者も殆どいないはずだが、現場周辺は人工林の杉林のようなので、到達は可能と踏んだ。

それなりの下調べの上で現場探しに臨んだが、意外にあっさりと現場に辿り着くことが出来た。小さいながら地元ライオンズクラブの手により、現場までの道標が整備されていた。細い山道を登って、車で入れたのは、やはり先の400m付近の民家までだった。そこには、田圃を潰しただけの駐車スペースが用意されていたが、殆ど使われている様子はない。そこから徒歩で杉林の中の獣道程度の草分け道を登っていくと現場に着いた。そこに建つのは、慰霊塔ではなく「記念碑」だった。その一帯に遺体が埋葬されたと聞くが、真偽のほどは定かでない。線路に出ると、618mの山神第二トンネルが口を開けているが、トンネルが大きくカーブしているために、内部は漆黒の暗闇だ。反対側の250m程先には山神第一トンネル見える。


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夏も終わりに近いこの場所に、吉松を発った列車が、後補機と復員兵で溢れ返る車輌をトンネル内に残して、本務機がトンネルを抜けた位置で止まってしまった。乗客が乗る車輌は通常の客車の後ろに、さらに貨物用の無蓋車を連結していたようだが、確証ある資料は見つけられなかった。補機の発する熱気と煤煙はトンネルの中を真幸側に駆け上がったはずだ。乗客は何の情報も得られず、自ら脱出に動いたことは想像に難しくない。本務機の乗務員の焦りたるや想像を絶するものであったことだろう。何度か必死に発進を試みただろうが、空転するばかりだ。その末に、機関士が思いついた、乗客と補機の乗員を救う最後の手段が、後退することだった。そして悲劇は起きた。


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粗悪な石炭、整備の行き届かない罐、定員や定数の無視、貨物用車両の旅客輸送への代用。どれをとっても太平洋戦争の影響が原因となった大事故だ。このような状況下で、運行を続けざるを得なかった乗員を決して責めるわけにはいかない。ましてや、自らの身を危険に曝しての決断だった。事故発生時、近在集落の住民が総出で、復員兵の救出、救護に当ったと、地元の郷土史には記録されている。


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今ここを通る観光列車は、強力な機関に守られて、急勾配の最中であっても減速をして、この場所での出来事を後世に伝えている。しかし、山崩れ災害などもあり、事故に関わった周辺集落は殆どがその姿を消し、現場に最も近かった集落には何軒かの廃屋が残されているだけで、現場に繋がる道も野に帰ろうとしている。事故の記憶が徐々に風化していくのは避けられないことかもしれないが、復員兵が故郷を目前にしてこの地で散った無念と、自責の念に捕らわれた余生を送ったであろう乗務員のことは、語り継がなくてはなるまい。もう、戦争など起きる筈がないと誰しも高を括っているが、油断は禁物だ。魔の手は、気付かぬ間に忍び寄って来るものだ。先日、沖縄のあるお年寄りが、「今の世の中の空気は、戦争前とよく似ている。」と語っていた。激動の時代を生き抜いてこられた人の確かな警鐘だろう。この事故現場も、平和ボケした僕らに、平和の尊さを語り掛けているような気がしてならない。


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1971年7月 吉松機関区


これで「山線の記憶」を終わります。


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テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真

  1. 2017/07/04(火) 00:30:00|
  2. 肥薩線
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  4. | コメント:2
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コメント

終戦混乱期の大事故

こあらまさま
旧鹿児島本線の肥薩線も、大畑のループスイッチバックや国鉄三代大車窓ばかり注目でありますが、これも決して忘れてはならない大事故かと。流石に世代が違いますので、若い頃に鉄道書籍を読んで知りました。足を伸ばして、現場までいかれたとは、敬服いたしました。しかし、はや半世紀以上が経過し、地元民もいなくなっているとのことですから、事故の記憶も遠くなるのが心配です。殉難碑と記念碑は、どなたかが手入れをしているようですね。余談ですが、某ローカル線で、ブレーキ故障を経験したことがあります。運転士と乗客は自分だけの折り返し列車が終着駅を発車後、「ガコン!」と大きな音がし、「今、床下からすごい音がしたよね?」と運転士から声かけされると、抑速ブレーキが故障。急勾配線であるので、一瞬、ふたりして真っ青です。恐る恐る、超徐行運転をしながら、安全な平地の主要駅にかなり遅れて無事に到着した時は、内心ドッときました。あまり、経験したくないですね。
  1. 2017/07/05(水) 15:24:53 |
  2. URL |
  3. hmd #-
  4. [ 編集 ]

動かぬも恐怖。止まらぬも恐怖。

hmdさん、

慰霊碑塔か慰霊碑が建ったのは、1961年か1963年で、地元の婦人会の手によるとされています。
今の御影石の記念碑は、状態から見て当初建てられたものとは違うもののようです。
案内板を立てたのが地元ロータリークラブですから、この碑の建立と管理はロータリークラブと思われます。
事故に拘わった住民や遺族の方々は多くが他界され、今では慰霊に訪れる方は殆どいないようです。

抑速ブレーキの故障を体験されましたか。抑速ブレーキが故障したら、その場で運転打ち切り、救援待ちになりそうなもんですが。
停止ブレーキがありますから、ゆっくり行けば止まれるのでしょうが、急勾配の下りでは怖いものがありますね。
車輛故障での運転打ち切りは何回か経験しましたが、ブレーキ故障で運転続行とは、滅多にない、恐ろしい体験をされましたね。
  1. 2017/07/05(水) 23:56:55 |
  2. URL |
  3. こあらま #bhV1oT4A
  4. [ 編集 ]

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こあらま

Author:こあらま
1950年代後半、東京生まれ。少年時代は国鉄現役蒸気を追いかけ、その後は山岳・高山植物・風景・街角等を題材に撮影旅を続けてきました。
2000年代、たまたま小海線のキハにカメラを向けてから俄に鉄道画に復活。ローカル線を中心に、鉄道絡みの画を撮っています。

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