駅舎の灯

旅の始まりにも、終わりにも、そこには何時も駅舎の灯があった。

山線の記憶 真幸の追憶

住民とともに時を紡いできた駅は、秘境駅になっていた
無人地帯となった駅に咲く桜は、どこか物哀しい

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2017年4月 肥薩線 真幸

山線の駅巡りも大畑、矢岳とお送りして、最後の真幸となった。大畑と矢岳は熊本県、真幸の次の吉松は鹿児島県に在する。そして、今回の真幸はというと肥薩線唯一の宮崎県となる。この矢岳越えの山中にある真幸は、宮崎県に最初に出来た駅だ。鹿児島本線として山線が開通したのは1909年のことだ。開通に合わせて大畑、矢岳の両駅は開業しているが、真幸は2年遅れとなっている。現在の日豊線、吉都線を辿る宮崎回りの鹿児島ルートが開通するまでには、さらに10余年の歳月を要した。ということで、真幸の駅舎は宮崎県最古の駅舎でもある。


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1971年7月

まず、1971年の真幸から見ていこう。真幸の駅はスイッチバックの中にあり、如何なる列車も通過することの出来ない構造になっている。駅の後方の盛土が本線で、右手が人吉方面になり、左手に折り返しの施設がある。駅の周りには民家が点在していた。駅舎横の便所脇にはステテコらしきものが干されている。なんとも長閑な眺めだ。翌年の土石流災害で住民の全てが移転してしまい、真幸の周辺は無人地帯と化してしまった。この時の写真は山線のデゴイチとともに、真幸集落の最後の記録となってしまった。

写真は2本の列車が交換のため同時に真幸に進入するシーンだ。手前の客レは吉松から人吉に向かう上り列車となる。客車はダブルルーフを含む3両で補機は付いていない。列車の停止位置はさらに右手で、ゆっくりと右に進行している。この列車の出発シーンを撮るためのこの場所に陣取っていた。当時の山線では普通列車は混合列車が主体だったが、その合間を埋めるように一部客レもあった。朝には1121レのような門司港発都城行の夜行普通客車列車も乗り入れていた。気動車といえば急行「えびの」と「やたけ」が結構頻繁に走っていた。

次に、客レの向こうの貨物列車だが、人吉から吉松に向っている。後ろの本線を一旦通過して、逆向で駅に進入し、同じく右方向に動いている。停止位置はまだまだ右の奥で、ホームの先の方まで下がると、やっと編成全体が所定の位置に収まる。写真右手にもう1両蒸気機関車があるが、鹿児島で廃車となったC6028で、解体待ちなのか、暫く留置線に放置されていた。こうしてみるとベースのC59はD51よりかなり大柄だ。


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1971年7月

吉松行の混845の出発シーンだ。引き出しのためにちょっと力が入っているが、直ぐに絶気となって25‰を下って行った。右奥はキハ58/55混成の上りの802D 急行「やたけ」だが、運転停止ではなく、れっきとした停車駅だった。キハ82の特急「おおよど」が登場するのは74年のことだ。


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2017年4月


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さて、現在の真幸駅に移ろう。1972年の土石流災害では構内が土砂に埋もれてしまったが、不幸中の幸い、駅の施設は流失を免れた。駅舎は開業当時のものが、今もそのまま残っている。ただ、周囲に集落のあった1971年に比べて、あまりにも人気のない駅になってしまった。秘境駅などと呼ばれるようになってしまったが、かつての様子を知る者にとっては、その変貌ぶりには驚かされる。特急「しんぺい」の後方に見えるのは、災害後に設けられた土石流対策の堰堤だ。昔、駅を見渡せた山の中腹の撮影スポットは、樹木に覆われて場所すらわからなくなっていた。住民が居なくなってから植えられたものと思われる桜の木がこんなに大きくなっている。住民が去ってからというもの駅の乗降客は殆どいない。今は、観光列車「いさぶろう しんぺい」の観光スポットというのが大きな役目だ。満開の桜は人の来ない駅舎の脇で、そっと散ろうとしていた。


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現在の定期列車は、普通列車が単車、観光列車の特急「いさぶろう しんぺい」が2両編成となっている。奥の深いスイッチバックを持て余し気味だ。「ななつ星」の停止位置の標識もあるが、7両編成であっても余裕で折り返せる。かつて、長編成の列車が身をくねらせるようにして越えていったスイッチバックのレールには薄らと赤錆が浮いていた。


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長い混合列車の最後尾に付く、峠のシェルパの後ろ姿には、復活蒸気の観光列車では味わえない、輸送力の一翼を担っていた現役時代の風格と迫力が感じられる。過ぎ去った時代は、決して戻っては来ない。


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テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真

  1. 2017/06/18(日) 00:30:00|
  2. 肥薩線
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

残り香

真幸と言えば大木さんの涙が出そうな名作が忘れられませんが、
同時代の写真はもちろん、今の写真からも何となく残り香が漂うようですね。
山津波に生き残った奇跡もあれば、せめて駅舎を残してくれた事に感謝すべきなのでしょう。
  1. 2017/06/19(月) 20:08:36 |
  2. URL |
  3. 風太郎 #ORZvdv76
  4. [ 編集 ]

悲劇の駅の幸せの鐘

風太郎さん、

旧真幸町の中心は、現在の吉都線の京町温泉駅辺りにあって、この真幸駅は町はずれの内堅という地区にあります。
たまたま町内最初の駅だったので真幸ということになっていますが、あと1、2年開業が遅かったら内堅という駅名だったでしょう。
鉄道の宿命で、勾配緩和のため町から離れてしまっていますが、今では通り抜ける列車もなく、当初の目的を失ってしまいました。
もう、山線には「鉄道施設遺産」として生き伸びるしか道がなくなってしまいました。
そんな状況からすると、悲劇の駅の幸せの鐘というのは、観光客には悪くはないのかもしれません。
ちなみに、構内の線路配置は昔と殆ど変っていませんが、かつては堰堤の向うまでレールが伸びていました。
  1. 2017/06/19(月) 22:44:00 |
  2. URL |
  3. こあらま #bhV1oT4A
  4. [ 編集 ]

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Author:こあらま
1950年代後半、東京生まれ。少年時代は国鉄現役蒸気を追いかけ、その後は山岳・高山植物・風景・街角等を題材に撮影旅を続けてきました。
2000年代、たまたま小海線のキハにカメラを向けてから俄に鉄道画に復活。ローカル線を中心に、鉄道絡みの画を撮っています。

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