多久の大築堤は、あの日と同じようにそこにあった
木製の電柱が加わったが、雰囲気は変わらぬままだ

2017年4月 唐津線 多久

1971年7月 同所
今春の九州の旅では、主に現役蒸気機関車の時代に訪れた撮影名所を巡礼して廻ったが、何も所謂「今昔物」を撮ろうと思ったわけではない。あの場所の半世紀後の姿を見たかったのは確かだが、かつての名所は今でも名所で在り続けているかもしれない。今の姿を、今の機材で、もう一度撮ってみたいというのが、巡礼の一番の目的だ。そこには、もう蒸気機関車は走っていないが、そんなことはどうでもいいことだ。その土地の今の在り様に接し、今の姿を捉えることのみだ。そこに、少しばかりの過日の面影でも残っていれば、それで十分だ。
今回は唐津線の多久の話だ。多久と厳木の間には、唐津湾と有明湾の分水嶺である笹原峠がある。「ささばる」と読む。現役蒸気の頃は、キューロクの客レが走っていたことで人気を博し、石炭列車には後補機が付くものがあり、こちらも見所だった。当時は、多久駅から笹原トンネルまでの「多久の大築堤」周辺をうろつくのが初心者の常道だったように記憶している。今回も半世紀前に倣って、その築堤でポイント探しをしたが、その昔、何所でどう撮ったかなどという記憶は殆ど残っていない。気の向くままに撮影をして多久を後にした。
後日、写真をチェックしていて、何となく昔見たような眺めがあることに気が付いた。そこで過去画を探ってみると、やはりあった。門デフ、化粧煙突のキューロクが多い唐津線にあって、デフなし、パイプ煙突とかなり無粋な罐だが、同じ背景の写真に間違えない。荷が軽いのかスカ状態で登ってきたが、ドレインサービスに救われた一枚だ。期せずして同じ場所の同じアングルに行き着くところをみると、進化がなかったということだろうか。偶然か必然か、今昔物と相成った。そして、列車はあの日と同じように笹原トンネルに消えていった。

複線用の笹原トンネル 九州の炭鉱線に特有の構造だが、草木に覆われてしまっている
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テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真
- 2017/05/23(火) 00:30:00|
- 唐津線
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