駅舎の灯

旅の始まりにも、終わりにも、そこには何時も駅舎の灯があった。

確かにそこに駅は在った 深名線 白樺

現役蒸気を追っていた頃、撮影場所の多くは自分で探す必要があった。列車ダイヤと地図を睨みながら現地を想像するのだが、駅名が重要な切っ掛けになることがある。広尾線沿線の落葉松防風林を探っていて見つけた幸福駅もそうだった。朱鞠内湖を望める場所がないかと目に入ったのが白樺駅だ。朱鞠内湖と白樺とくれば行かない手はない。しかしながら、調査不足でそこが無人地帯とは知らなかった。キハ22を降りると、駅は残骸のようで人の気配は全くない。駅から始まるはずの道すらない。散々辺りを歩き回ったが、小さな踏み跡は何れも原生林の中に消えていた。線路と平行して国道が走っているはずなのだが、そこへ出る道すらなかった。それを知っていても、藪漕ぎする勇気はなかった。それでも、ヒグマと出会う恐怖に怯えながら、何とか白樺林と朱鞠内湖岸を往く2本のキューロク貨物を撮影することができた。迎えのキハが目に入った時の安堵感ときたらない。間違って通過してしまわないように、タクシーでもないのに思わず手を振ってしまった。

北海道雨竜郡幌加内町字白樺。画を撮影した頃のこの駅の所在地だ。北海道大学農学部演習林内にあった深名線の駅だが、隣駅の蕗の台と同様に、木材の積み出しのために設置されたのが始まりだ。1941年10月10日の開業当初には、開拓も試みられたこともあったが、厳しい気候と貧弱な土壌のために根付くことはなかった。最盛期の1956年には、12,009トンの木材が白樺駅から搬出され、100人程の林業関係者が白樺に住んでいた。以後急速に寂れ、駅は1960年に貨物取り扱いを止め、翌1961年に無人化、1962年には自治区も消滅、1965年時点の国勢調査では住人は皆無となっている。最盛期からたった5、6年の出来事だった。無人地帯となった白樺だが、駅は在り続けた。1977年からは冬季休止、1986年には臨時駅に降格、そして1990年3月10日に白樺駅はついに廃止となった。

1974年8月、無人地帯になった白樺に取り残された駅は、本当に哀れな姿になっていた。島式ホームに貨物線と貨物ホームを有し、立派な駅舎があったというが、棒線化したホームのコンクリートは、傾いた端から壊されているのか、無残な様相を曝している。ホームの向こうの駅舎代わりの小屋は、崩れんばかりに痛んでいる。ボロボロの駅名標にぶら下げられた時刻表は、不安になるほど現実味がない。最盛期には、このホームから10人を越す子供たちが通学していたことなど、到底想像ができないが、この駅は、こんな北海道の山中にも人の暮らしがあったことの生き証人だったのかもしれない。どうして無人化した集落の駅が残されたのかは不思議なところだ。沿線住民が山菜採りに利用していたという話も聞くが、理由にならない理由だ。どんな訳かは定かでないが、確かにそこに駅は在った。

白樺駅の廃止から5年半後の1995年9月4日に、超赤字ローカル線の深名線は廃線となった。


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  1. 2016/08/10(水) 00:30:00|
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プロフィール

こあらま

Author:こあらま
1950年代後半、東京生まれ。少年時代は国鉄現役蒸気を追いかけ、その後は山岳・高山植物・風景・街角等を題材に撮影旅を続けてきました。
2000年代、たまたま小海線のキハにカメラを向けてから俄に鉄道画に復活。ローカル線を中心に、鉄道絡みの画を撮っています。

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