駅舎の灯

旅の始まりにも、終わりにも、そこには何時も駅舎の灯があった。

増毛の残照 最終夜 駅舎の灯 21時49分

静まり返った駅前には、遠くから微かな波音が聞こえてくる
95年間この町を見守り続けた駅舎の灯が消えようとしていた

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2016年10月 留萌本線 増毛

21時41分、深川からの最終列車4935Dが到着し、8分間の停車の後、21時49分発の最終の留萌行き5922Dとなって折り返して行く。この日は仕事帰りの勤め人と思しき方が一人だけ降りてきたが、返しの列車の乗客は皆無だった。ただし、これは平日の話で、土曜休日は1本前の19時台の列車が最終となる。最終運行日の12月4日は日曜日だったため、19時台がこの線区の最終運行列車となった。始発から15時間半の、長いような短いような増毛駅の一日が終わろうとしていた。静まり返った駅には、折からの強風に荒れる海からの波音が聞こえていた。

近頃では葬式鉄なる現象があるようで、廃止が決まった列車や車輌、路線に人が押し寄せているらしい。小生は一応「日常の鉄道」ということを大切にしているつもりなので、「非日常」となってしまったものは原則対象外だ。廃止前の増毛に行くかどうかも悩んだが、増毛港への誘惑には勝てなかった。とは云え、増毛は内地の都市からは極めて遠い。現地では何人かの道内の撮り鉄の方にお会いしただけで、いつも通り一人で列車を待つことが出来た。増毛駅の線路を囲むロープには少々落胆はしたが、好天の増毛港に立つことが叶ったし、それなりに静かに最後の増毛を眺める事が出来、44年ぶりのリベンジで気が済んだというものだ。

JR北海道の路線の廃止は、1995年の深名線から暫くはなかったが、19年後の2014年の江差線の頃から俄に雲行きが怪しくなり、それから僅か2年後の留萌線の増毛と相成った。この先も多くの廃止が計画されるに至って、北の鉄路の行く末がやっと全国区のニュースとなったのも束の間、今はトランプ大統領の爆弾発言の前には、それどころではなくなってしまったようだ。この分では、状況は厳しくなるばかりだ。世間の話題にも上ることなく、次々と路線が地図から消えていくことになりそうだ。拙ブログのカテゴリには、沢山の北海道の路線名が上がっているが、その多くが既に廃止路線になっている。それが時代の流れというものだろうが、思い出路線ばかりになってしまうのも哀しいものだ。


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これで、6回連載でお送りした「増毛の残照」を終わります。



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2016年10月 留萌本線 箸別


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  1. 2017/01/25(水) 00:30:00|
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増毛の残照 第5夜 最北の酒蔵

留萌の海岸段丘の下の浜辺に、その元仮乗降場はあった
かつて海水浴客で賑わった列車は、廃止を前に久々に満員だ

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2016年10月 留萌本線 瀬越

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増毛には「日本最北の酒蔵」と呼ばれる「国希」がある。旭川は全国区の「男山」や「国士無双」、「大雪の蔵」などの酒蔵が犇めく激戦区で、こちらの方が北ではないかと思いがちだが、地図をよく見てみると、僅かに増毛の方が北にある。留萌本線は深川から西ではなく、北西に向かって伸びている。留萌と同じ緯度は、宗谷本線では蘭留と塩狩の間にあり、増毛は比布辺りになる。つまり、男山より国希の方が僅かだが北にあることになる。もう一つ気になるのが北見にある「栄光摩周」・「北見寒菊」が銘柄の山田酒造だ。石北本線は旭川を出ると徐々に北上して遠軽に向い、そこから南下して北見、また北上して網走へと至る。網走は地図上でも明らかに留萌よりも北にあり、もし網走に酒蔵があれば間違いなく最北だ。問題の北見は、緯度をきちんと調べないことには判らない。各地の緯度を記しておくが、僅かながら旭川より北になるが、僅差で増毛よりは南となる。つまり、北から増毛、北見、旭川の順になり、国希が名実ともに最北である。ちなみに4位の地は新十津川で、「金滴」がある。ただ、調査が未熟で、さらに北の隠れ酒蔵があれば、情報をお寄せいただきたい。是非買い出しに向かいたい。

左党の方々はそろそろ喉が渇いてきた頃かと思うが、拙ブログの管理人もその口だ。増毛の地に再訪した目的というか楽しみは、「国希」にもある。元々は呉服商であったが、ニシン漁に沸くヤン衆のために、酒造業も始めたのが明治35年ということで、酒蔵としての歴史も115年となる。北海道の清酒は淡麗辛口が多いが、この国希も、北前船の飲料水にも好まれたという暑寒別山塊の伏流水で仕込まれる、頗る飲み口のいい酒だ。家庭で団欒に味わうには最適な味わいを持つ。管理人は濃厚、芳醇タイプが好みであり、北海道の蔵が選択肢に上がることは少ないが、試す価値は十分にあるとお伝えしておこう。ただ、管理人が飲むのは、その場所で晩酌用に普通に呑まれている雑味の多い銘柄で、風味のバリエーションの少ない淡麗なだけの、精米度も価格も高い銘柄は全くもって対象外だ。酒蔵の御主人に留萌線廃止の影響について尋ねてみると、鉄道利用のお客さんは殆ど買ってくれないという。札幌からバスでやって来るお客さんに、五合瓶がよく売れるという。それはそうだ。中には管理人のように、一升瓶をまとめ買いしていく買い出し組も偶にいるとのこと。美味い酒だけあって、津軽海峡を越える時には、一升瓶はラベルだけになっていた。

各地の緯度
網走 44.020631
留萌 43.940987
増毛 43.856063
北見 43.807823
旭川 43.770799


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増毛の「国希酒造株式会社」

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「国の誉」は旧銘柄


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  1. 2017/01/23(月) 00:30:00|
  2. 留萌本線
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増毛の残照 第4夜 雄冬山

かつてこの海岸を往く国道は、増毛の先で行き止まりだった
雄冬山の尾根が日本海に沈み込むところに、陸の孤島雄冬はあった

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2016年10月 留萌本線 信砂

この写真の中央に信砂(のぶしゃ)の駅があり、キハ54が停車している。後ろに聳えるなだらかな山容が増毛山塊の雄冬山だ。「雄冬」とくれば、やはり故高倉健の「駅 STATION」だろう。国道231号線、通称「オロロンライン」では、当時の石狩の浜益村千代志別と増毛町大別苅の区間において、増毛山塊が沈み込む断崖絶壁が、道路建設を長らく阻んでいた。その只中にある増毛に属する雄冬は陸の孤島であり、増毛港から通う雄冬海運所属の「新おふゆ丸」が唯一の交通手段だった。雄冬に戻る途中、欠航で所在ない高倉が、八代亜紀の「舟唄」が流れる賠償の居酒屋「桐子」に入る。映画の中のワンシーンだ。

雄冬にあった増毛町立雄冬小中学校は「へき地等級3」の学校だった。5段階の真ん中で、道内ではまだまだ序の口ということだろう。日本では喜ばしいことに「教育基本法 第三条」に、教育の機会均等がしっかりと謳われている。さらに僻地の教育については「へき地教育振興法」が存在し、僻地に赴く教員・職員への福利厚生についても考慮されている。その「へき地手当」を支給するための「へき地等級」が学校毎に定められている。等級は都道府県が条例で定めているが、駅(停留所)、病院、高校、郵便局、スーパーマーケット、市の中心地などへの距離から算定されている。ただ、渡船しか移動手段のない雄冬の3等級は、冬の荒波のことを考えれば厳しすぎるようにも思える。

陸の孤島だった雄冬にも、国道231号線の道路建設が始まった。1981年の雄冬岬トンネルの開通で全通したが、何度となく崩落不通を繰り返したため、安定的に開通したのは1982年になってで、その年に航路が廃止されている。しかし、道路ができても住民の減少は止まらず、小学校も2002年に閉校となった。最盛期500人以上が暮らした雄冬の人口は現在70人程で、小学生はおらず集落の存続が危ぶまれている。現在も国道の改修が続けられ、移動の快適さは増している。高倉健演じる英治は、渡船の欠航に妨げられることなく、増毛から路線バスに乗れば20分程で帰郷できるようになったが、増毛には既に駅はなく、雄冬の賑わいももうない。


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  1. 2017/01/21(土) 00:30:00|
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増毛の残照 第3夜 箸別の丘

前夜の暴風で日本海の波はまだ高く、雲の流れも速い
下りの始発列車が、増毛へと生徒たちを迎えにいく

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2016年10月 留萌本線 箸別

この廃止区間には、随分前から既に路線バスが走っていた。まず、その沿岸バスの留萌別苅線を調べてみよう。増毛よりオロロンラインを数キロ南下した「大別苅」が始発で、増毛バスターミナル、増毛駅を経由して、留萌線とぴったりと並ぶオロロンラインを北上し留萌市街に入る。市役所、留萌記念病院、留萌駅、警察署、コープさっぽろ、保健福祉センター、陸上自衛隊駐屯地、留萌高校などを順に経由して、終着の「留萌市民病院」へと至る。市民病院は留萌駅から東に2km程のところにある。停留所は全部で54箇所、8時台から20時台までの一日9往復が走る。運賃は増毛駅―留萌駅間が¥420。対するJRは6.5往復、¥350だった。一方、通学定期券については、バスはJRの約3倍とかなり高額だが、列車の留萌到着が6:41、8:05と留萌高校・留萌千望高校の始業時間には、決して相応しいものではなかった。また、増毛町には通学交通費の半額補助の制度もある。

もし増毛町民のあなたが、凍てつく雪の日に通院のために市民病院へ行かなくてはならない。できれば帰りに買い物もしたい。しかし、もう年なので冬の車の運転は危険だ。さて、JR増毛駅に向かいますか。それとも沿岸バスの増毛バスターミナルに向かいますか。その答えが全ての顛末だ。中には早朝や夜遅くに移動しなければならないケースもあるだろう。そのために、JRからの5千万円の交付金で、路線バス運行時間外に在った列車に合わせて、1往復の相乗りタクシーが設けられたが、初日の利用者は2人だけだった。実際に、2012年からの瀬越(留萌の隣駅)から増毛までの8駅の一日乗降客数は全てがきれいに「ゼロ」だった。数字をそのまま解釈すれば、高校生、お年寄りも含め殆どの町民が増毛バスターミナルを選択していたことになる。それでは、地域間となればどうだろう。留萌からのバス路線は、旭川へ10.5往復、札幌へは内陸経由の「るもい号」が9往復、沿岸経由の「はぼろ号」が1往復と、JRを頼らない高速安価なバス路線網が形成されている。結果的に、殆ど客のいないキハがこの区間を往復していたということだ。そうでなければ、冬季運休などということが許されるわけがない。


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  1. 2017/01/19(木) 00:30:00|
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増毛の残照 第2夜 増毛漁港を往く

44年前の怒涛の風雪から打って変わっていい天気となった
そこには青い空を映す静かな水面が広がっていた

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2016年10月 留萌本線 増毛

この時期に増毛を訪れたのは他でもない、とにかく増毛漁港を往く列車を撮っておきたかったからだ。44年前の冬に、この地を訪れたことがある。その日は、冬型が強まり留萌、増毛、羽幌といった日本海沿岸は猛烈な風雪に見舞われていた。時化のため増毛漁港は漁船で一杯だったが、漁師の姿はなく、視界の利かない埠頭には、横殴りの雪と波濤が打ち付けていた。一日一往復のキューロク貨物1773レは遅れを出しながらも、雪だるまになって増毛のヤードに辿り着いたが、返しの1774レの時間になっても天候は回復せず、終ぞ増毛港からの撮影は叶わなかった。そして再訪することなく無煙化となってしまった。

「逃がした魚は大きい」という諺があるように、そうして撮り損ねてしまった場所への思いは、消えることなどなく、逆に膨らみ美化すらされて行くものだ。幾つかのポイントは、廃止によって完全に失われてしまった。環境の変化で、見る影もないような場所になってしまったところもある。どうやら、あの日の増毛港は、そう変わることなく在り続けているようだ。どうしても、その日までに増毛に行かなくてはならなかった。まこべえさん が最終運行の日にアップされた、キューロク在りし日の写真と見比べて頂きたい。鉄道車両も船舶も進化し、獲れる魚種も変わっているが、そこには変わらぬ増毛港の漁師の営みがあった。


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  1. 2017/01/17(火) 00:30:00|
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プロフィール

こあらま

Author:こあらま
1950年代後半、東京生まれ。少年時代は国鉄現役蒸気を追いかけ、その後は山岳・高山植物・風景・街角等を題材に撮影旅を続けてきました。
2000年代、たまたま小海線のキハにカメラを向けてから俄に鉄道画に復活。ローカル線を中心に、鉄道絡みの画を撮っています。

著作権について

拙ブログに掲載する写真、記事に関する著作権は放棄しておりませんので、無断使用、転載等はお控えください。

なお、拙ブログへのリンクは自由です。

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