駅舎の灯

旅の始まりにも、終わりにも、そこには何時も駅舎の灯があった。

山線の記憶 峠の秘境駅

厳しい矢岳越えの山中のサミットにその駅はある
峠越えの休息場所は、今や観光列車の記念写真のスポットだ

80009038.jpg
2017年4月 肥薩線 矢岳

この肥薩線矢岳駅は熊本県人吉市矢岳町にある。2010年の国勢調査では人口77人、33世帯とある。今回初めて車で訪れてみて、その秘境駅ぶりを再確認することとなった。大畑駅は国道221号線から続く市道189号線をほんの数キロ走れば行き着く。真幸駅は駅前に国道447号線が通り、京町温泉からひとっ走りだ。ここ矢岳駅へは大畑から細い山道を辿るか、京町温泉から九十九折の坂道で矢岳高原を越えなくてはならない。さすがに、現在はその全線が舗装されているので、通行には大した問題はないが、砂利道だった頃は、余程の用事がない限り、行き来するのが憚れるような道程だ。人吉市立矢岳小学校は2014年に廃校になったが、その始まりは1892年設立の大畑尋常小学校大川間分教場ということで、矢岳は大畑の辺縁集落の一つであったようだ。

この矢岳集落は、鉄道と盛衰をともにしてきた。1909年の鹿児島本線の開通から、1927年に肥薩線となるまでの18年間が最も矢岳が栄えた時期とされている。運行上の理由とは思われるが、優等列車も停車し、駅弁まで売られていたというから驚きだ。もちろんその跡地から当時の交換設備の様子などを窺い知ることが出来る。この肥薩線全線が現在観光路線として人気を博しているのは、変化に富んだ車窓風景や峻険な矢岳越えのスイッチバックやループ線にもあるが、当初鹿児島本線として敷設され、その後ローカル線化したということに由るところが大きい。本線仕様の橋梁や隧道、駅舎などの鉄道施設が、ローカル線という時間の止まった博物館で静かに保存されてきたように思う。そういった意味では、やはり肥薩線自体が掛け替えのない鉄道遺産というべきものだ。

下りの「いさぶろう」が到着した。車内から乗客が一斉にホームに降り、駅舎や列車などをバックに記念写真の撮影会が始まった。暫し賑やかな時間が流れたが、列車の出発とともに直ぐに静かな秘境駅へと戻った。列車はすぐ先の宮崎県との県境を過ぎると矢岳第一トンネルへと入る。その隧道を抜けたところが日本三大車窓となる。残念ながら、いさぶろうの乗客で人吉市SL展示館に足を向けられた方はおられなかった。横に展示されていたハチロク58684が現役復帰してからは、D51170が一両でこの展示館を守っている。現役引退直後からずっとここで保存されているため状態は良さそうだ。人吉市と湧水町のこのデゴイチの復活プロジェクトは一体どうなったのだろうか。そういえば、プロジェクトがスタートしたときの国交相は前原誠司氏だった。時間が経つのは早いものだ。


70013663.jpg


70013664.jpg


70013665.jpg


70013670.jpg


70013657.jpg


70013661.jpg


80009042.jpg


スポンサーサイト

テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真

  1. 2017/05/27(土) 00:30:00|
  2. 肥薩線
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

川線の印象 雨のトラス橋

平地の少ない球磨川沿いの斜面に民家が寄り添う
109歳の橋梁を、95歳の機関車が往く

70013536.jpg
2017年4月 肥薩線 鎌瀬

このハチロク58654は、名門の日立笠戸で1922年に製造されて以来、ずっと九州で走り続けてきた。どういうわけか、この罐とは縁があり、これまで、湯前線での現役時代、矢岳の人吉市SL保存館での静態保存時代、豊肥線での「あそBOY」時代を見てきた。そして今回の「SL人吉」で4時代目となった。復活蒸気の中では最古参の罐になるが、ボイラー、動輪、台枠といった主要部品が新造交換されているので、川線なら助っ人の力を借りずに今も走ることができる。例によって、復活時に、重油併燃装置も付けられている。一時期、JR九州お抱えの三戸岡鋭治氏によって不細工な姿にさせられていた時期もあったが、現在は本来のハチロクの姿に戻されている。

さて、こちらの球磨川第一橋梁はハチロク58654よりさらに古く、1908年竣工だ。作業ネットが残念だったが、ニューヨーク生れのアメリカン・ブリッジ社製で、トランケート式の美しいトラス橋だ。同様式のトラス橋は、球磨川第二橋梁とともに全国に二ヶ所しかない。余部橋梁の前例があるので、こちらの橋梁も大丈夫かとちょっと心配になるが、ここは肥薩線だ。架け替えなどあろうはずがない。万が一流されるようなことがあれば、只見線と同じ運命を辿ることだろう。折からの大降りの雨のせいだろうか、同業者は殆どおらず、この大人気スポットで構えてみた。数人のファンのためにサービスもしてくれた。古い橋梁に、古い機関車。どちらも、消えて欲しくない鉄道遺産だ。


80008972.jpg


テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真

  1. 2017/05/25(木) 00:30:00|
  2. 肥薩線
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

川線の印象 雨降りの川面

激しい雨に球磨川が煙っている
川線を往く翡翠のヘッドライトが川面に輝いた

70013549R.jpg
2017年4月 肥薩線 海路

海路とは面白い集落名と駅名だ。大河の球磨川に由来するものだろう。因みに小海線にも千曲川沿いに「海」の付く駅が4駅もある。その一つの小海が路線名にもなっている。球磨川は急流として知られ、八代と人吉を結ぶ水運は、1600年代の開削工事によって初めて可能となった。それ以降、球磨川が人吉の発展に貢献してきたことからも、その流域に海路という集落があるのも頷ける。肥薩線が開通し、両岸に車道が整備されると水運は衰退し、現在は観光用の舟下りの川になっている。

この区間の対岸からの撮影はなかなか難しい。現役蒸気の時代もそうだったが、バックの深い緑に列車が沈んでしまう。そういう意味で、この3月改正で登場した「かわせみ やませみ」も強敵だ。深い青と緑を基調にしているので、気象条件のせいなのか、川の宝石というには程遠い。ここ海路にはよく知られた俯瞰場所もあるが、この天候では選択肢にはならない。苦肉の策のヘッドライト撮りと相成った。この後にやって来た普通列車の白い車体が、この時ばかりは天使の羽衣のように思えた。

この日は明け方から、雨もまたよしなどと言ってはいられないほどの大降りだった。球磨川の川面も白く煙っていた。人は濡れても乾かせば元に戻るが、カメラはそうはいかない。それなりの雨対策はしているつもりだが、そんなことが心配になるような降り方だった。「待てば海路の日和あり」なんて諺があるが、この場合どういう解釈をつければいいのだろうか。天候の回復を辛抱強く待てということか。それとも、辛抱して撮っていれば必ず幸運に恵まれるということか。後者を信ずる他あるまい。


70013561.jpg


テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真

  1. 2017/05/15(月) 00:30:00|
  2. 肥薩線
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

山線の記憶 大畑の軌跡

霧が晴れ大畑駅の向こうに人吉盆地が見えてきた
一駅でこれだけの高低差を稼がなくてはならない

80009022.jpg
2017年4月 肥薩線 大畑

現役蒸気機関車の時代の、大畑の最もポピュラーなお立ち台は、ループ線を見渡せる丘の上だった。駅からループ線を辿って30分も歩けばその場所に着く。当時、ループ線一帯には木はなく、草原が広がっていた。日陰は見当たらず、夏であれば炎天下でひたすら列車を待つことになる。大畑駅での列車の動きは見えないが、全ては音で窺える。下り列車のループ線への引き出しは凄まじいものがあった。何とか加速を終えた列車が姿を現す。夏らしいまずまずの黒煙だ。厳しい仕業中ではあるが、炎天下で見守るファンのためにドレインをサービスしてくれた。何ともいい時代だった。

それから46年が経ち、木々の成長がループ線の眺望を奪ってしまった。駅前の丘の上にある神社からも構内は見渡せない。現在撮影できるのはスイッチバックを望む場所くらいだ。この辺りも以前は木々が少なく、色々なアングルから狙え、駅も丸見えだったが、もはや昔話だ。何となく駅周辺だけが観光用に開けているような気もする。この撮影ポイントも地主さんが撮影用に木を伐採して整備したものだ。立ち入りが有料化されたという話も聞こえてくる。今や鉄道も周辺も観光地ということだろう。記憶の中の大畑は遠い世界になってしまった。

以前この大畑スイッチバックを往く「ななつ星」をバルブ撮影することを考えたが、とうとう機会に恵まれなかった。このお立ち台でお会いした鹿児島在住の肥薩線のエキスパートに、そのことをお話すると、なんと彼のEOSにその映像が現れた。人吉の夜景をバックにした何とも美しい光の軌跡が収められていた。やはり、考えることは一緒だ。その他にも多くの作品を拝見させて頂いたが、地元の方には全く持って脱帽だ。


01812RF16.jpg
1971年7月 大畑ループ線

さて、大畑の最後に施設の現状を一通りアップしておこう。何だかんだとよくよく見ると、昔とは大分違っている。給水塔には三角の屋根が被せられていたはずだ。ホームの一部にあった屋根もなくなっている。湧水盆にも手水舎に掛かっているような屋根があったはずだ。それでも、こうして駅舎も残っているのだから贅沢を言ってはいけない。昔と比較するからああだこうだとなるが、現代にあって古き良き時代を思わせる逸品であることには違いない。


80008995.jpg


80008996.jpg


80008993.jpg


80009001.jpg


70013626.jpg


70013629.jpg


テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真

  1. 2017/05/11(木) 00:30:00|
  2. 肥薩線
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4

山線の記憶 大畑雨情

雨に煙る山中に、あの時のように大畑はひっそりと佇んでいた
そっと耳を傾けると、デゴイチの怒涛の走りが聞こえてきそうだ

70013615.jpg
2017年4月 肥薩線 大畑

これまで肥薩線山線には、現役蒸気機関車の時代、無煙化後のDD51の混合列車の時代にそれぞれ訪れているが、その後はご無沙汰で、40年ぶりの再訪となった。以前の旅では蒸気機関車、混合列車をテーマとして写真を撮ったが、今や車両的に興味の湧くものはなくなってしまったので、今回は開業当初からの設備が残る大畑、矢岳、真幸の駅の佇まいを中心にお送りしたい。

現在山線を走る列車は5往復しかない。そのうち昼間の2往復は観光列車「いさぶろう・しんぺい」で、朝夕の3往復がキハ140単行の普通列車になっている。以前は「ななつ星」が深夜に通過していたが、現在は肥薩オレンジ鉄道経由で、山線はルートから外されている。列車本数は限界ダイヤの超ローカル線で、吉都線とともにJR九州の輸送人員のワースト路線になっている。

まずは大畑から始めよう。生憎の雨模様だが、なかなかしっとりとしたいい雰囲気だ。駅舎は、かつての広尾線の幸福のように、千社札よろしく名刺などがびっしりと貼られている。そのため、待合室内は空模様と相まって薄暗いが、一人の時間でも楽しんでおられるのか女性の姿があった。どうやら始発で人吉から来られたようだ。そうこうしているうちに、人吉行普通列車がループ線を降りてきた。上下線の出発信号が並んで立ち、列車のヘッドライトとテールライトが同時に点灯している。いかにも、スイッチバック駅ならではの眺めだ。


70013612.jpg


80009003.jpg


テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真

  1. 2017/05/09(火) 00:30:00|
  2. 肥薩線
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
次のページ

プロフィール

こあらま

Author:こあらま
1950年代後半、東京生まれ。少年時代は国鉄現役蒸気を追いかけ、その後は山岳・高山植物・風景・街角等を題材に撮影旅を続けてきました。
2000年代、たまたま小海線のキハにカメラを向けてから俄に鉄道画に復活。ローカル線を中心に、鉄道絡みの画を撮っています。

著作権について

拙ブログに掲載する写真、記事に関する著作権は放棄しておりませんので、無断使用、転載等はお控えください。

なお、拙ブログへのリンクは自由です。

最新記事

最新コメント

リンク

月別アーカイブ

最新トラックバック

カテゴリ

小海線 (99)
飯山線 (20)
宗谷本線 (13)
天北線 (1)
興浜北線 (1)
深名線 (1)
石北本線 (7)
渚滑線 (2)
湧網線 (1)
相生線 (2)
釧網本線 (3)
根室本線 (2)
池北線 (1)
広尾線 (2)
留萌本線 (7)
札沼線 (1)
函館本線 (36)
室蘭本線 (6)
千歳線 (1)
日高本線 (3)
江差線 (11)
大湊線 (4)
津軽鉄道 (1)
五能線 (2)
八戸線 (3)
花輪線 (1)
三陸鉄道 (2)
釜石線 (8)
秋田内陸縦貫鉄道 (2)
由利高原鉄道 (1)
米坂線 (2)
磐越西線 (1)
日中線 (3)
只見線 (41)
真岡鐡道 (14)
東北本線 (1)
総武本線 (1)
中央東線 (3)
東海道本線 (2)
八高線 (8)
秩父鉄道 (7)
西武池袋線 (1)
西武山口線 (1)
江ノ島電鉄 (10)
箱根登山鉄道 (3)
御殿場線 (2)
岳南電車 (6)
中央西線 (1)
関西本線 (2)
宮津線 (1)
山陰本線 (22)
播但線 (1)
姫新線 (3)
津山線 (1)
芸備線 (6)
木次線 (1)
三江線 (3)
山口線 (5)
日豊本線 (14)
筑豊本線 (5)
後藤寺線 (1)
唐津線 (3)
松浦線 (3)
大村線 (1)
長崎本線 (2)
久大本線 (2)
豊肥本線 (2)
高森線 (1)
肥薩線 (12)
日南線 (2)
写真集・書籍 (3)
鉄道模型 (1)
ご挨拶 (0)
はじめまして (3)
未分類 (0)

写真に写った方々へ

鉄道は人を運び、人に見送られ、人に支えられています。時として人が主役になります。

撮影の際には、なるべくご了解を頂くようにはしておりますが、そうできない場合もあります。写った方々と見る方々が不快に思われないようなものに限っていますが、ご本人やそのご関係者の方で、掲載に不都合がある場合には、メールでご連絡ください。 また、登場する鉄道員の方をご存知でしたら、差し支えがなければご紹介ください。

こあらまへのメール

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

ご来場者累計

RSSリンクの表示

QRコード

QR