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駅舎の灯

旅の始まりにも、終わりにも、そこには何時も駅舎の灯があった。

確かにそこに駅は在った 鹿児島交通枕崎線 枕崎

何とも荒廃感のある駅だ。この頃、鹿児島交通枕崎線は赤字に喘いでいた。経営状況は悪化の一途で、国鉄ローカル線と同様に、沿線の人口減少と自動車の普及による乗客の減少に直面していた。その苦しい台所事情が、そのまま駅の表情に出てしまっていたようだ。貨物輸送はこの6年前に合理化のため廃止され、引き込み線は雑草に覆われていた。ホームの駅名票は朽ちて傾き、構内には空き缶などが散乱していた。

この駅は南薩鉄道の駅として1931年に開業した。伊集院から南進してきた南薩鉄道が、この年に枕崎に到達し、伊集院-枕崎間が全通した。1963年には、国鉄の指宿枕崎線が延伸開業し、南薩鉄道の枕崎駅に間借りする形で乗り入れた。1964年に鹿児島交通の社名になり、同社の枕崎線となったが、地元では南薩線の愛称で親しまれた。1982年には、車輌や設備も老朽化し廃止方針が決まり、豪雨災害の不通を契機に、1984年に南薩線は全線廃止となった。

写真には国鉄の列車が写っているが、駅の設備は全て鹿児島交通の所有だ。国鉄周遊券の旅のため、指宿枕崎線で枕崎入りしたが、街を見物して早々に引き返している。何故、鹿児島交通のキハ100の到着を見届けなかったのか。鉄への興味が薄れていた時期とはいえ、今となっては痛恨の失態だ。南薩線の廃止の後も、駅舎は鹿児島交通のバス事業に使われていたが、2006年に再開発事業のため鹿児島交通の所有地は売却され、枕崎駅は現在の位置に100mほど移動した。


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1977年8月 鹿児島交通 枕崎線(南薩線) 枕崎

ホームは島式1面2線のみで、手前が南薩線、向こうを国鉄線が使っていた。キハ100が停まっている写真が欲しいところだが、全く持って残念だ。駅舎とホームの間には貨物用の引き込み線が何線かあるが、雑草に覆われてしまっていた。夕立ちが来たので、駅舎の軒下から撮っている。何ともうらぶれた感じが漂う。


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停車するのは国鉄指宿枕崎線のキハ20だが、隣の車輌はキハ55と思われる。ボロくなった駅名票の標記は明らかに国鉄文字体ではなく、国鉄の駅ではないことが分かる。当時の枕崎は国鉄には駅として登録すらされていなかった。左方向が南薩線の鹿籠、右方向が国鉄線の薩摩板敷となる。現在のJR九州の枕崎駅は、右方向に100mほどの処に移動している。


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国鉄の列車はここまでとなる。左手にはカトリック枕崎教会の十字架とその幼稚園の看板が見える。この教会は現存するが、幼稚園の方はなくなったようだ。列車の発車時刻が近付いたのか、ホームには人影がある。右手の三角屋根が駅舎になる。


さて、ここからは現在の枕崎駅の様子をお伝えしよう。ちょうど40年の年月が過ぎて、駅周辺の様子も一変した。南国鹿児島の明るいイメージの駅に生まれ変わっていた。移転時はホームだけの棒線駅だったが、枕崎市により駅前広場が造られ、多目的トイレも整備された。珍しいケースだが、駅舎は市民の寄付などで建てられ、駅としての体裁が整った。


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2017年4月 指宿枕崎線 枕崎

すっかり小奇麗な駅に生まれ変わっている。魚の意匠の目隠しの建物は多目的トイレで、屋根には6尾のカツオのオブジェが泳いでいる。カツオの町をイメージさせる作りだ。左上には、至って小振りの駅舎が見えるが、残念ながら無人駅で券売機も設置されていない。


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旧枕崎駅はこの先100m程のところにあった。ちょこっと看板が見えるが、現在は茨城県発祥のスーパーマーケットのタイヨーの店舗と駐車場になっている。カツオのオブジェに刺激されて、物は試しでタイヨーでカツオのタタキなどを買ってみた。現地で食べる気分がプラスされているだろうが、美味かったことは覚えている。


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こんな繋がりで、枕崎と稚内が友好都市になっているとは知らなかった。2005年の放送になるが、関口知宏の「列島縦断 鉄道乗りつくしの旅」というテレビ番組があった。2005年3月に枕崎駅を出発しているが、その時の国鉄枕崎駅は移転前で、先のホームの一線だけを使用した、駅舎なしの棒線駅だった。その番組の終着駅は根室だった。「乗りつくし」の前作として「最長片道切符」というのもあった。こちらの出発駅は稚内だったが、どちらも結構高視聴率だったようだ。こういったテレビ番組が友好を取り結んだのかもしれない。


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駅前広場には鹿児島の地図が。立体的に見えるが勿論平面だ。書かれているのは鹿児島本線、日豊本線、指宿枕崎線の3線になる。大隅半島は鉄道空白地帯に逆戻りしている。おや、肥薩線がない。廃線になるのを見越しているのか。縁起でもないので、省略しないで欲しかった。


70013868.jpg


「新駅舎概要」にあるように、新駅舎は市民の浄財によって建てられた。グッドデザイン賞も受賞している。駅の移設から7年の時間を要している。コンセプトとして「レトロ感」を挙げているが、さすがに40年前の旧駅をご覧いただいた直後では、「レトロ感」には少々酷かもしれない。


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終着駅の象徴の車止め。駅舎の駅名標は枕崎出身の立行司の第36代木村庄之助の書ということだ。確かに駅は綺麗になったが、御多分に漏れず、今度は少子高齢化という難題を抱えることになった。この駅に発着するのは日に6往復の普通列車のみで、レールは赤錆に覆われてしまった。辛うじて、列車停車位置の赤いバラストが列車の往来を感じさせるが、駅そのものがオブジェになってしまわないことを祈るばかりだ。


新旧の枕崎駅をご覧いただいたが、40年という時間は駅や街の様子を大きく変えるものだ。良きにつけ悪しきにつけ、時間は人も社会も絶えず変えて行く。その時代時代を記録することも、写真の大切な役割だとこあらまは考えている。勿論、感動的な1枚を撮りたいというのは、写真をやる者の偽りのない願望だが、時代を記録する地道な作業もまた忘れてはならないと思う。その記録写真の中に、記録以上のものを封じ込めることが出来ればしめたものだ。


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テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真

  1. 2020/08/22(土) 00:00:00|
  2. 鹿児島交通枕崎線
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プロフィール

こあらま

Author:こあらま
1950年代後半、東京生まれ。少年時代は国鉄現役蒸気を追いかけ、その後は山岳・高山植物・風景・街角等を題材に撮影旅を続けてきました。
2000年代、たまたま小海線のキハにカメラを向けてから俄に鉄道画に復活。ローカル線を中心に、鉄道絡みの画を撮っています。

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