FC2ブログ

駅舎の灯

旅の始まりにも、終わりにも、そこには何時も駅舎の灯があった。

布原の記憶

D51三重連で大いに沸いた布原
半世紀後、芸備線の駅になっていた

80018639.jpg
2020年4月 伯備線 布原

09時12分、備中神代から降って来た足立石灰工業のホッパー車を連ねた2492レが、静かに布原の信号場に滑り込む。牽引するD51からは三条の黒煙が渓谷に真っ直ぐに立ち昇る。3分後の09時15分、新見から交換のキハ10/20系の芸備線三次行き857Dが、西川橋梁を渡り信号場に進入してくる。9時16分、2492レの出発の三声の汽笛が谷間に響き、信号場から苦ヶ坂隧道までのおよそ200mの僅かな区間の怒涛の加速が始まる。橋梁を望む隧道横の斜面に陣取ったファンの前をD51三重連が隧道へと消えていく。

これが、国鉄が演出した伯備線布原三重連の粗筋だ。行った人も、行かなかった人も、間に合わなかった人も、当時の蒸気ファンの共通の記憶として残っている。それだけ、有名かつ露出度の高い布原三重連だった。負債に苦しむ当時の国鉄にとって、SLファンは有難い存在だった。信号場と橋梁の保安通路を開放し、とびっきりの爆煙とドレインでファンにサービスした。信号場では時刻表の配布もしていた。その甲斐あって、最盛期には数百人が見守る一大聖地となった。しかし、無煙化前の1972年3月に三重連は消えた。

さて、こあらまはと云うと行かなかった一人だ。九州の行き帰りに立ち寄ることも考えたが、何故か往かず仕舞いだった。一度くらい体験したかったが、橋梁付近に集る群衆を思い浮かべると、ついぞ足が向かなかった。どちらかと云えば、ほっこり系ローカル線の津山線や芸備線、姫新線などの方に興味があった。それから半世紀。2018年に布原を俯瞰する場所に立ったが、谷底に降りることはしなかった。その後悔からか、2020年に初めて布原の線路端まで到達した。そこには、何故か見慣れた線形の芸備線の布原駅があった。


80018645.jpg


80018649.jpg


こちらは、芸備線の新見行きとなる。伯備線を往く電車はこの駅には一切停まらない。停まるのは備中神代から伯備線に入り、新見まで往復する芸備線の単行のキハ120だけだ。現在は三次に行く列車はなく、東城か備後落合だ。新見行きは布原の緩い逆S字カーブを苦ヶ坂トンネルに向かう。往く手に西川橋梁とかつてお立ち台だった斜面が見えるが、今は鬱蒼とした森に戻っている。


70022031.jpg


ここが撮影スポットの橋梁だ。橋桁には「第23西川橋梁」の標記がある。周りには随分と障害物が増えてしまった。橋梁を渡って、お立ち台を見たかったが、もう国鉄時代ではない。橋梁を潜る道は集落内は舗装されていたが、西川沿いのこの道を辿ると河本ダムを通って石蟹に繋がっているはずだ。


70022050.jpg


布原には今も数軒の民家が健在だが、山越えの細道を通って、車で10分足らずで新見の街に行ける。意外と新見が近く、車さえあれば秘境などではない。ただ、四面楚歌の地形が孤独感を醸し出していることは確かだ。D51三重連の写真の背景には、鄙びた民家と水田のある美しい山里の眺めが写っていた。そんな風景を期待していたのだが、それは叶わなかった。僅かな畑地があるだけで、大方は放棄地になってしまっていた。新見あたりに働きに出ているのか、農村の面影は薄い。伯備線の線形は昔のままだが、やはり半世紀の時の流れは、布原を大きく変えていた。


80018650.jpg


スポンサーサイト



テーマ:鉄道写真 - ジャンル:写真

  1. 2020/05/12(火) 00:00:00|
  2. 伯備線
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

プロフィール

こあらま

Author:こあらま
1950年代後半、東京生まれ。少年時代は国鉄現役蒸気を追いかけ、その後は山岳・高山植物・風景・街角等を題材に撮影旅を続けてきました。
2000年代、たまたま小海線のキハにカメラを向けてから俄に鉄道画に復活。ローカル線を中心に、鉄道絡みの画を撮っています。

著作権について

拙ブログに掲載する写真、記事に関する著作権は放棄しておりませんので、無断使用、転載等はお控えください。

なお、拙ブログへのリンクは自由です。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

小海線 (194)
飯山線 (57)
宗谷本線 (46)
天北線 (4)
興浜北線 (2)
名寄本線 (1)
深名線 (2)
石北本線 (19)
渚滑線 (2)
湧網線 (2)
相生線 (5)
釧網本線 (14)
根室本線 (27)
太平洋石炭販売輸送臨港線 (1)
白糠線 (1)
池北線 (2)
士幌線 (1)
広尾線 (3)
富良野線 (8)
留萌本線 (11)
札沼線 (6)
函館本線 (58)
室蘭本線 (19)
千歳線 (1)
石勝線 (1)
夕張線 (4)
夕張鉄道 (1)
日高本線 (6)
江差線 (12)
函館市電 (2)
大湊線 (10)
津軽線 (1)
津軽鉄道 (4)
五能線 (18)
八戸線 (9)
弘南鉄道 (1)
花輪線 (6)
三陸鉄道 (4)
山田線 (1)
釜石線 (8)
北上線 (9)
男鹿線 (3)
秋田内陸縦貫鉄道 (9)
由利高原鉄道 (2)
石巻線 (5)
仙石線 (1)
陸羽東線 (4)
陸羽西線 (3)
長井線 (2)
米坂線 (9)
羽越本線 (7)
磐越東線 (2)
磐越西線 (4)
日中線 (3)
只見線・会津口 (44)
只見線・小出口 (38)
真岡鐡道 (15)
東北本線 (1)
上越本線 (3)
しなの鉄道 (1)
総武本線 (1)
中央東線 (13)
東海道本線 (4)
東海道新幹線 (1)
横須賀線 (5)
八高線 (18)
秩父鉄道 (10)
東京都電車 (7)
西武鉄道 (3)
小田急電鉄 (2)
江ノ島電鉄 (27)
箱根登山鉄道 (4)
御殿場線 (2)
岳南電車 (6)
中央西線 (4)
明知鉄道 (2)
富山地方鉄道 (1)
氷見線 (2)
越美北線 (1)
名古屋鉄道 (1)
樽見鉄道 (2)
関西本線 (5)
小浜線 (2)
宮津線 (4)
山陰本線 (49)
山陽本線 (3)
播但線 (3)
姫新線 (7)
若桜鉄道 (6)
因美線 (4)
津山線 (4)
伯備線 (1)
芸備線 (11)
木次線 (9)
福塩線 (1)
境線 (1)
一畑電車 (1)
三江線 (6)
錦川鉄道 (1)
岩徳線 (2)
山口線 (7)
小野田線 (1)
土讃線 (3)
予讃線 (5)
牟岐線 (1)
とさでん交通 (1)
予土線 (3)
鹿児島本線 (2)
日豊本線 (22)
筑豊本線 (10)
日田彦山線 (7)
伊田線 (2)
後藤寺線 (2)
田川線 (3)
唐津線 (5)
松浦線 (5)
佐世保線 (1)
大村線 (4)
長崎本線 (2)
島原鉄道 (1)
久大本線 (6)
宮原線 (1)
豊肥本線 (4)
高森線 (4)
高千穂線 (1)
肥薩線 (29)
くま川鉄道 (3)
吉都線 (2)
日南線 (4)
宮之城線 (2)
鹿児島交通枕崎線 (1)
指宿枕崎線 (4)
海外 (1)
鉄道展示館 (1)
写真集・書籍 (4)
鉄道模型 (1)
ご挨拶 (0)
はじめまして (3)
未分類 (0)
写真機材 (1)
福井鉄道 (1)
城端線 (1)
アルピコ交通 (1)

月別アーカイブ

最新トラックバック

リンク

写真に写った方々へ

鉄道は人を運び、人に見送られ、人に支えられています。時として人が主役になります。

撮影の際には、なるべくご了解を頂くようにはしておりますが、そうできない場合もあります。写った方々と見る方々が不快に思われないようなものに限っていますが、ご本人やそのご関係者の方で、掲載に不都合がある場合には、メールでご連絡ください。 また、登場する鉄道員の方をご存知でしたら、差し支えがなければご紹介ください。

こあらまへのメール

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

ご来場者累計

RSSリンクの表示

QRコード

QR