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駅舎の灯

旅の始まりにも、終わりにも、そこには何時も駅舎の灯があった。

確かにそこに駅は在った 白糠線 北進

その駅は、原野の只中にあった。周囲には人工物らしきものは見当たらず、踏み分け路のような細い道、いや足跡が、ちょっと離れたところにある数軒の民家へと続いていた。

国鉄の駅名の命名法には厳しい条件があった。少なくとも駅周辺の地名として実在することが必須だった。ところが、白糠線の「北進」周辺には、その地名は存在しない。ここの実在地名は釧路二股だ。白糠線がもっと北へと伸びていって欲しいという願いがそのまま駅名になっている。当時の国鉄は己の基準すら通せないくらいに弱体化していたことになる。

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1977年3月 白糠線 北進


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釧路鉄道管理局の国鉄マンだった今亡き叔父は、根っからの鉄道好きで、記念きっぷの収集も行っていた。彼のコレクションは現在はこあらまが管理しているので、白糠線に関するものがないか漁ってみたところ、さすがは管内の路線だけあって、節目の記念きっぷが揃っている。それらの資料に沿って白糠線を振り返ってみよう。


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白糠線は根室本線の白糠から池北線の足寄を結ぶ予定線だった。森林開発と石炭輸送が建設の目的として挙げられていた。しかし、用地を所有する地元白糠の農民団体の猛反対があり、血みどろの争いが起きている。国の力で用地が買収され、一部開通となったが、その争いが響いてか、沿線住民の白糠線への愛着は盛り上がらなかった。

白糠線の白糠-上茶路間が開通したのは、きっぷの日付の1964年10月7日で、この頃本格操業に入った雄別炭礦上茶路鉱の石炭輸送が開始された。D51の牽く石炭列車が走っていたようだが、ウェブで探してもその姿はほんの僅かしか見つけられない。蒸気ファンにとってもあまり食指が動かないマイナーな路線であったことが窺える。

上茶路炭鉱の操業によって上茶路の人口は一気に600人まで増えたが、雄別炭礦は国策に乗って補助金目当てに1970年に突然閉山してしまう。白糠線の人員輸送は激減し、貨物輸送も皆無となった。もう一つの建設目的の森林開発は、すでにモータリゼーションが始まっており、鉄道には荷が回ってこなかった。


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そんな事情にはお構いなく、日本鉄道建設公団は予定線の工事を続け、1970年には釧路二股までの工事が終わっていた。しかし、大きな赤字が見込まれるため、国鉄はその受け入れを強く拒否し続けた。ところが、1972年に田中角栄内閣が発足し、北海道出身の佐々木英世が運輸大臣に就任した。その先は、推して知るべしで、すんなり開業許可が下りてしまい、きっぷの日付の1972年9月8日に北進までが延伸開業となった。記念きっぷの裏面には「上茶路-北進間は・・・日本鉄道建設公団において工事を進め・・・」とあり、政治的に赤字ローカル線が国鉄に押し付けられたという思いが文面に滲み出ている。そして、折しも北進開業の年の1970年に予定線の建設の中止が決まっている。

当然のことながら、国鉄改革に伴い、1981年に白糠線は第一次特定地方交通線に指定された。その時の輸送密度は123人/日、営業系数2,872と、全国でも群を抜く大赤字ローカル線となっていた。さすがにこの数字ではと白糠町も諦め、醒めた沿線住民からは反対運動すら起こらなかった。


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そして、開業から19年目の1983年10月22日にさよなら列車が走ることとなった。北進延伸開業からは僅か11年の命だった。最終列車乗車証明書にあるように、白糠線のダイヤは日に3往復だった。上茶路開通時は4往復あったが、北進延伸時に3往復に減らされている。このダイヤを見ると日中線を思い出す。まさに国鉄時代の限界ダイヤと云うべきものだ。こうして、北海道の盲腸線は後を追うように消えていった。

ちなみに3枚の記念きっぷの何れにも「白糠馬踊り」がデザインされている。白糠町の郷土芸能で、青森県の「南部馬踊り」に起源があるとされている。


さて、こうして白糠線の歴史を調べていくと、ここにも政治の国鉄への圧力があったことが分かる。先日、国鉄民営化を推し進めた中曽根元首相がお亡くなりになった。英国のサッチャー女史の影響と思われる国営企業の民営化策だが、日本のこの政策には最も重要な処置がなされていない。確かに、国鉄はガバナンスという点で大きな問題があったが、技術的には世界に誇れるものがあった。優秀な技術屋集団であったはずだ。国鉄の債権が膨らんだ理由は色々あるが、その大きな一つに政治的な介入がある。「我田引鉄」と揶揄されていた問題だが、今も「整備新幹線」にその後を見ることが出来る。鉄道の地位凋落で、政治家の関心が薄れたことは確かで、興味はやはり道路の方に移ったのだろう。収支が問われるとなると、無料の高規格道に衣替えさせる手法などは、もう開いた口が塞がらない。そういえば「忖度」が問題になったも道路建設絡みだ。与野党問わず、「金を使うのが政治だ」と勘違いしている輩がいなくならない限り、日本の借金は留まることはないだろう。ということで、日本が破産するまで借金は膨れ上がるということだ。


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  1. 2019/12/23(月) 00:00:00|
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プロフィール

こあらま

Author:こあらま
1950年代後半、東京生まれ。少年時代は国鉄現役蒸気を追いかけ、その後は山岳・高山植物・風景・街角等を題材に撮影旅を続けてきました。
2000年代、たまたま小海線のキハにカメラを向けてから俄に鉄道画に復活。ローカル線を中心に、鉄道絡みの画を撮っています。

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